昨夜、私は新しい七.五畳、十二畳(六畳+六畳)、四.五畳の部屋に帰宅しました。大阪で十年八ヶ月借りた部屋とほぼ同じ間取りと広さですが、一寸だけ天井が高くて、壁と床がきれい。いつかキールンで泊まった、外見は古いけど室内は新しく居心地のいいアパートメント民泊に似ています。
何件か見た物件のうち、入った瞬間に自分の部屋だとピンときて契約を決めたわけでなく、普段コンビニのおにぎりを選ぶ時のように即決はできなかったけど、じわじわと押し寄せてくるなんとも言い難い魅力に迷いに迷って決めました。
チンチン電車の最寄駅から家までの夜道を歩くのはこの日が初めて。薄手のコートだと少し冷えるなあと後悔していると、そのうち雨も降りだしました。部屋はまだ、足りないものだらけ。寝室カーテンがないので取りあえず現像液と定着液が飛び散った跡が残る暗室用ダークカーテンを吊し、照明がないので六十ワットの蛍光灯電球をふたつ暗室用スタンドの中身と入れ替え部屋のすみに置きました。
こういう状態だし夕食は適当でいいや、となります。鍋が出てこないので(引越段ボールから)、やかんで湯をわかしインスタントのラーメンに注ぎ、京都ネギともやしをのせ、どんぶりも出てこないので、ボールで食べました。
薄暗い空間にオレンジ色の光を浴びた"うまかっちゃん”。ボールから麺をすする口に入れたときのあたたかさと重み。スープの入ったボールだけがこの部屋で唯一あたたかく、湯気を出して生き物みたいに見えました。このヘンテコな夕食シーンは頭の中にべったり焼き付いたので、これからも時々おもい出すような気がしています。
縁もゆかりもなかった大阪の西成区と阿倍野区の境目の西成側の知らなかった町で、当初は旅しているような一日を終えながら、気付けば十年一寸。日々のなかの繰り返しと慣れの多さ…。知らず知らずのうちに、むだなく効率的に動き、予想されるトラブルは回避し、安定的でラクなほうへいく、そんな自分自身にも慣れてしまっていました。
只今現在、初めてと不安定でいっぱいのこの何日間は、繰り返しの連続するパターンからぽっと抜け出せた日々。住む場所を変え、通い慣れた路を手放し、不安定を手に入れたことで、単調だった日々にすこしだけ抵抗できた気になっています。朝はベランダから遠く先の比叡山に浮かぶ雲海みたいな景色をボーと見ているうちに時間がすぐ経ちます。まだ夢の中みたいだなと思ったりします。
