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Saturday, February 1, 2020

『AFTER THE YELLOW RAIN』 The Works of Keelung


 2013年、第一回台北芸術博覧会と云う展覧会に参加するため、初めて台湾を訪れた。台北市に滞在中、ふと山内道雄写真集『基隆』の何頁かが思い浮かび、鉄道で40分、台湾北部の港町へ足を運んでみた。
 
「基隆」の読みは、「キールン」。地元の人たちは「ケールン」とか「チールン」とか「ジーロン」とか云っているように、自分には聞こえた。その時、強烈な印象として残ったのは、あの懐かしようで新鮮な路上の喧躁と、月台(プラットホーム)から静かにひっそりと伸びる光景だったように思う。

市街地の80年代で時が止まっているような、ひと昔前の日本を思わせる雰囲気に私はしきりと幼少期を過ごした街の光景や匂いの記憶を呼び覚まされ、夢中で歩いて、フィルムに写した。なんとなくミュート・ビートの『After The Rain』みたいな、雨上がりにフワッと隙間を抜くような、キールン特有の雰囲気は時に激しい場面にも遭遇したけど、基本的にはゆったりと優しい。
 
あれから何年か時間が経ち、2020年何度目かのキールンに再び足を運んで思うこと……旅は楽しい仕事でもあるけど、沈んだ気分をまぎらすために出かけ、旅にかぎらずひとりで楽しめ、一寸時間をかけた意味のあるような、ないような、そんな小さな積み重ねが、のちのち救いになることを実感した。

新たな旅、同じ場所へ何度も向かう旅、これからも私は繰り返したい、そう思えることが今はうれしい。